高齢者虐待防止法とは?虐待にあたる行為や相談・通報先をわかりやすく解説

高齢の家族や介護施設の利用者さんについて、「これは虐待にあたるのではないか」「家族の介護が限界で、つい強い言葉をかけてしまう」「介護職として虐待が疑われる場面を見たが、どう対応すればよいのか」と悩む方もいるのではないでしょうか。

高齢者虐待防止法は、正式には「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」といいます。高齢者の尊厳を守り、虐待の防止、早期発見、虐待を受けた高齢者の保護、さらに介護する家族など養護者への支援を目的とした法律です。

高齢者虐待というと、暴力や暴言を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、身体的虐待だけでなく、心理的虐待、介護・世話の放棄や放任、性的虐待、経済的虐待なども高齢者虐待に含まれます。

また、高齢者虐待防止法では、虐待をしている人を責めることだけが目的ではありません。介護を担う家族が孤立していたり、介護疲れや経済的な不安を抱えていたりする場合には、養護者への支援も重要とされています。厚生労働省も、高齢者虐待への対応では未然防止、早期発見、迅速で適切な対応、再発防止に加え、養護者支援を含めた対応マニュアルを示しています。

高齢者虐待が疑われる場合は、家族だけで抱え込まず、市区町村の高齢者福祉窓口や地域包括支援センターなどに相談することが大切です。高齢者の福祉に関係する業務に携わる人や医師、保健師、弁護士などは、高齢者虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、早期発見に努めることも法律で求められています。

高齢者虐待防止法の基本、虐待にあたる行為の種類、家族や介護職が注意したいサイン、相談・通報先、虐待を防ぐためにできることについてわかりやすく解説します。

高齢者虐待防止法とは?

高齢者虐待防止法とは、高齢者への虐待を防ぎ、早期に発見し、虐待を受けた高齢者を保護するための法律です。

正式名称は、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」といいます。

この法律は、高齢者を虐待から守ることだけでなく、介護をしている家族などの養護者を支援することも目的としています。

高齢者虐待は、介護をしている家族が強いストレスや疲労を抱えている中で起こることもあります。そのため、高齢者虐待防止法では、虐待をした人を一方的に責めるのではなく、介護者が孤立しないよう支援につなげることも大切にされています。

高齢者虐待防止法で対象となるのは、主に次の2つの場面です。

・家族や親族など、養護者による高齢者虐待
・介護施設や介護サービス事業所の職員など、養介護施設従事者等による高齢者虐待

たとえば、自宅で家族が介護している高齢者に対する暴力や暴言、必要な介護をしないこと、年金や預貯金を本人の意思に反して使うことなどは、養護者による虐待にあたる可能性があります。

また、老人ホーム、デイサービス、訪問介護、ショートステイなどの介護サービスの中で、職員が高齢者に暴力をふるう、人格を傷つける発言をする、必要な介助をしないといった場合も、高齢者虐待として問題になります。

高齢者虐待防止法では、市区町村が相談や通報の窓口となり、必要に応じて事実確認や高齢者の保護、介護者への支援を行います。

つまり、高齢者虐待防止法は、高齢者本人を守るための法律であると同時に、介護をしている家族や現場の支援体制を整えるための法律でもあります。

「虐待かもしれない」と感じたときは、家族だけで判断したり、介護者を責めたりするのではなく、早めに地域包括支援センターや市区町村の高齢者福祉窓口へ相談することが大切です。

高齢者虐待にあたる行為の種類

高齢者虐待というと、殴る、蹴るといった暴力を思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし、高齢者虐待防止法で考えられる虐待は、身体的な暴力だけではありません。暴言や無視、必要な介護をしないこと、本人のお金を勝手に使うことなども、高齢者虐待にあたる可能性があります。

高齢者虐待は、主に次の5つに分けて考えられます。

身体的虐待

身体的虐待とは、高齢者の体に傷や痛みを与える行為です。

たとえば、叩く、つねる、蹴る、押さえつける、無理に引っ張る、必要以上に身体を拘束するなどが含まれます。

介護中に「危ないから」「言うことを聞かないから」という理由であっても、本人の体を傷つけたり、自由を不当に制限したりする行為は虐待にあたる可能性があります。

心理的虐待

心理的虐待とは、高齢者の心を傷つける言動や扱いをすることです。

たとえば、怒鳴る、脅す、人格を否定する、無視する、子ども扱いする、ほかの人の前で恥をかかせるといった行為が考えられます。

身体に傷が残らないため周囲が気づきにくいこともありますが、本人の不安や恐怖、自尊心の低下につながる深刻な虐待です。

介護・世話の放棄や放任

介護・世話の放棄や放任は、必要な介護や生活の世話をしないことを指します。

たとえば、食事や水分を十分に与えない、入浴や排泄の介助をしない、必要な医療や介護サービスを受けさせない、汚れた衣類や寝具のまま放置する、危険な住環境を改善しないといった行為です。

家族に悪意がなくても、介護疲れや知識不足、経済的な事情などによって、結果的に高齢者の健康や安全が守られていない場合があります。

性的虐待

性的虐待とは、高齢者にわいせつな行為をすることや、本人の意思に反して性的な行為をさせることです。

また、排泄や着替えの場面で必要以上に身体を見せる、本人の羞恥心に配慮しない扱いをすることも問題になる場合があります。

高齢者本人が被害を言い出しにくいこともあるため、周囲が異変に気づくことが大切です。

経済的虐待

経済的虐待とは、高齢者の財産や年金、預貯金などを本人の意思に反して使ったり、必要なお金を使わせなかったりすることです。

たとえば、本人の年金を家族が勝手に使う、通帳やキャッシュカードを取り上げる、本人に必要な医療費や生活費を渡さない、不動産や財産を無理に処分させるといった行為が考えられます。

「家族だから」「介護しているから」といって、本人のお金を自由に使ってよいわけではありません。高齢者本人の意思や生活を守ることが大切です。

高齢者虐待は、ひとつの種類だけで起こるとは限りません。身体的虐待と心理的虐待、介護放棄と経済的虐待など、複数の虐待が重なっていることもあります。

また、介護している家族が「虐待しているつもりはなかった」と感じている場合でも、高齢者本人の安全や尊厳が損なわれていれば、支援が必要な状態と考えられます。

気になる様子がある場合は、家庭内だけで抱え込まず、地域包括支援センターや市区町村の窓口に相談することが大切です。

高齢者虐待が疑われるときの相談・通報先

高齢者虐待が疑われるときは、家族や周囲の人だけで判断しようとせず、早めに相談することが大切です。

「本当に虐待か分からない」
「家族の問題に口を出してよいのか迷う」
「介護施設で気になる対応を見たが、どこへ伝えればよいか分からない」

このように感じる場合でも、まずは相談して構いません。虐待かどうかを最終的に判断するのは、相談を受けた市区町村などの関係機関です。

主な相談先は、次のような窓口です。

・市区町村の高齢者福祉担当窓口
・地域包括支援センター
・担当のケアマネジャー
・介護施設や介護サービス事業所の管理者
・都道府県や市区町村の相談窓口
・緊急性が高い場合は警察や救急

在宅介護で家族による虐待が疑われる場合は、地域包括支援センターや市区町村の高齢者福祉窓口に相談します。本人の安全確認、介護サービスの調整、家族への支援、必要に応じた保護などにつながることがあります。

介護施設や介護サービス事業所で虐待が疑われる場合は、施設内の相談窓口や管理者に伝えるほか、市区町村へ相談することもできます。施設や事業所の中だけで解決しようとせず、外部の窓口につなげることが大切です。

また、介護職や医療職など、高齢者の福祉や介護に関わる仕事をしている人は、虐待を発見しやすい立場にあります。気になる傷やあざ、本人の怯えた様子、不自然な説明、介護放棄が疑われる状態などがある場合は、早めに上司や関係機関へ相談しましょう。

相談するときは、分かる範囲で次のような情報を整理しておくと伝えやすくなります。

・本人の名前、年齢、住所
・誰による虐待が疑われるか
・いつ、どこで、どのような様子があったか
・傷やあざ、体調不良、生活環境の状況
・本人が話していた内容
・介護者や家族の様子
・緊急性があるかどうか

ただし、すべての情報がそろっていなくても相談できます。「気になる様子がある」「以前と比べて様子がおかしい」といった段階でも、早めにつなげることが大切です。

特に、暴力を受けている、食事や水分が与えられていない、医療が必要なのに放置されている、命や安全に関わる危険があると感じる場合は、すぐに市区町村、警察、救急などへ連絡しましょう。

高齢者虐待は、家庭内や施設内で見えにくくなりやすい問題です。相談や通報は、誰かを責めるためだけのものではなく、高齢者本人を守り、介護する家族や現場を支援につなげるための大切な行動です。

まとめ:高齢者虐待防止法は、高齢者の尊厳と安全を守るための法律

高齢者虐待防止法は、高齢者への虐待を防ぎ、早期に発見し、虐待を受けた高齢者を保護するための法律です。

正式名称は「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」といい、高齢者本人を守るだけでなく、介護を担う家族などの養護者を支援することも目的としています。

高齢者虐待には、身体的虐待だけでなく、心理的虐待、介護・世話の放棄や放任、性的虐待、経済的虐待などがあります。暴力や暴言だけでなく、必要な介護をしない、本人のお金を勝手に使う、無視する、人格を傷つける言葉をかけるといった行為も虐待にあたる可能性があります。

また、虐待は家庭内だけで起こるものではありません。介護施設やデイサービス、訪問介護など、介護サービスの場で職員による虐待が問題になることもあります。

高齢者虐待が疑われる場合は、「本当に虐待か分からない」と迷っても、早めに相談することが大切です。相談先としては、市区町村の高齢者福祉窓口、地域包括支援センター、担当ケアマネジャー、介護施設の管理者などがあります。命や安全に関わる緊急性がある場合は、警察や救急への連絡も必要です。

高齢者虐待への対応は、誰かを責めるためだけのものではありません。高齢者本人の安全を守ると同時に、介護者が孤立しないよう支援につなげることも大切です。

介護疲れや認知症対応の難しさ、経済的な不安、家族だけで抱え込んでいる状況がある場合は、虐待が起こる前に相談することも重要です。

高齢者虐待を防ぐためには、家族や介護職だけで抱え込まず、地域包括支援センターや市区町村、介護サービス、医療・福祉の専門職とつながることが大切です。

「少し気になる」「このままで大丈夫だろうか」と感じた段階で相談することが、高齢者本人の尊厳と安全を守り、介護する人の負担を軽くする第一歩になります。

執筆者

この記事の執筆者
清水 健児

バディファミリーサービス / 生活サポートアドバイザー

バディファミリーサービス所属。
高齢者の生活支援や介護保険外サービスの相談に多数対応。

外出サポート、買い物同行、施設探しなど、
家族だけでは難しい生活支援のサポートを行っている。

現在は地域サロンの運営や、
高齢者と家族を支える生活支援サービスの普及活動にも取り組んでいます。