高齢の家族について、「最近歩き方が小刻みになった」「転びやすくなった」「物忘れが増えた」「尿もれが目立つようになった」と感じることはありませんか。
こうした変化は、加齢や認知症、足腰の衰えによるものと思われがちですが、場合によっては「正常圧水頭症」という病気が関係していることがあります。
水頭症とは、脳や脊髄のまわりを流れる髄液という液体の流れや吸収に問題が起こり、脳の中にある脳室が広がる病気です。高齢者でよく話題になるのは、特に「特発性正常圧水頭症」と呼ばれるタイプです。
正常圧水頭症では、歩行障害、認知機能の低下、尿失禁が代表的な症状として知られています。国立長寿医療研究センターも、正常圧水頭症は60歳以上、多くは70〜80代の高齢者に起こり、歩行障害、認知症、尿失禁が典型的な3つの症状と説明しています。ただし、必ず3つの症状がそろうわけではありません。
特に歩行障害は早い段階から目立つことがあり、足が上がりにくい、小刻みに歩く、方向転換が苦手になる、転びやすくなるといった変化が見られることがあります。
正常圧水頭症は、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病、脳血管障害、前立腺肥大などと症状が似ていることがあります。そのため、症状だけで自己判断するのは難しく、医療機関での画像検査や詳しい評価が必要です。国立長寿医療研究センターも、アルツハイマー病などの認知症や脳血管障害、パーキンソン病などが合併していることもあり、症状だけでは診断できないと説明しています。
一方で、正常圧水頭症は「治療可能な認知症」として注目されることもあります。診断の結果、手術の効果が期待できる場合には、髄液を別の場所へ流すシャント手術が検討されることがあります。ただし、手術には感染や出血、髄液が流れすぎることによる合併症などのリスクもあるため、医師とよく相談することが大切です。
高齢者に見られる水頭症、特に正常圧水頭症の症状、原因、認知症との違い、検査や治療、家族が注意したいサインについてわかりやすく解説します。
高齢者の水頭症で見られる主な症状
高齢者の水頭症、特に正常圧水頭症では、歩き方の変化、認知機能の低下、尿失禁が代表的な症状として知られています。
ただし、すべての症状が同時に出るとは限りません。最初は「少し歩きにくそう」「物忘れが増えた気がする」「トイレに間に合わないことが増えた」といった、日常の小さな変化として現れることもあります。
歩き方の変化
正常圧水頭症で特に気づきやすいのが、歩き方の変化です。
足が上がりにくくなる、小刻みに歩く、すり足になる、歩き出しに時間がかかる、方向転換が苦手になるなどの様子が見られることがあります。
家族から見ると、「急に足腰が弱った」「転びやすくなった」「歩幅が狭くなった」と感じることがあります。
加齢や筋力低下でも歩きにくさは起こりますが、以前と比べて歩き方が明らかに変わった場合は、整形外科的な問題だけでなく、脳の病気が関係している可能性も考えられます。
認知機能の低下
水頭症では、物忘れや判断力の低下など、認知症に似た症状が見られることがあります。
たとえば、ぼんやりしている時間が増える、反応が遅くなる、会話の理解に時間がかかる、意欲が低下する、日常の段取りが悪くなるといった変化です。
アルツハイマー型認知症などと似て見えることもあるため、家族だけで見分けるのは難しい場合があります。
「年齢のせい」「認知症が進んだのかもしれない」と決めつけず、歩き方の変化や尿失禁も一緒に見られる場合は、正常圧水頭症の可能性について医師に相談してみることが大切です。
尿失禁・トイレの失敗
正常圧水頭症では、尿失禁やトイレに間に合わないといった症状が出ることもあります。
最初は、トイレが近くなる、急に尿意を感じる、移動に時間がかかって間に合わないといった形で現れることがあります。
高齢者の尿もれは、前立腺肥大、膀胱の病気、薬の影響、筋力低下などでも起こります。そのため、尿失禁だけで水頭症と判断することはできません。
ただし、歩き方の変化や認知機能の低下とあわせて尿失禁が見られる場合は、正常圧水頭症の代表的な症状が重なっている可能性があります。
「年齢のせい」と決めつけないことが大切
高齢者の水頭症で見られる症状は、加齢、認知症、足腰の衰え、泌尿器の病気などと似ていることがあります。
そのため、家族だけで判断するのは難しく、医療機関での診察や画像検査が必要になります。
特に、次のような変化がある場合は、早めに相談しましょう。
・歩幅が狭くなった
・すり足や小刻み歩行が目立つ
・転びやすくなった
・歩き出しや方向転換が難しくなった
・物忘れやぼんやりする様子が増えた
・意欲が低下した
・トイレに間に合わないことが増えた
・歩行、認知機能、尿失禁の変化が重なっている
正常圧水頭症は、症状だけでは判断できません。しかし、早めに気づいて受診することで、検査や治療の選択肢につながることがあります。
高齢の家族に気になる変化がある場合は、かかりつけ医や脳神経内科、脳神経外科などに相談してみましょう。
高齢者の水頭症が疑われるときの受診先と検査
高齢の家族に、歩き方の変化、認知機能の低下、尿失禁などが見られる場合でも、それだけで水頭症と判断することはできません。
正常圧水頭症の症状は、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、脳血管障害、脊椎の病気、泌尿器の病気などと似ていることがあります。そのため、気になる変化がある場合は、医療機関で詳しく調べることが大切です。
まずはかかりつけ医に相談する
どの診療科に行けばよいか迷う場合は、まずかかりつけ医に相談してもよいでしょう。
「最近歩き方が小刻みになった」
「転びやすくなった」
「物忘れと尿もれが一緒に増えている」
「急にぼんやりする時間が増えた」
このように、気になる変化を具体的に伝えると、必要に応じて脳神経内科や脳神経外科、認知症外来などへ紹介してもらえることがあります。
特に、歩行障害、認知機能の低下、尿失禁が重なっている場合は、正常圧水頭症の可能性も含めて相談してみましょう。
脳神経内科・脳神経外科で詳しく調べる
水頭症が疑われる場合は、脳神経内科や脳神経外科で詳しい診察や検査が行われます。
診察では、歩き方、バランス、認知機能、排尿の状態、これまでの病歴、服薬内容、転倒歴などを確認します。
また、頭部CTやMRIなどの画像検査で、脳室が拡大していないか、正常圧水頭症に特徴的な所見がないかを調べます。特発性正常圧水頭症の診療ガイドラインでも、症状や画像所見、タップテストなどをもとに診断と治療方針を検討するとされています。
タップテストを行うことがある
正常圧水頭症が疑われる場合、タップテストという検査が行われることがあります。
タップテストとは、腰から少量の髄液を抜き、その後に歩き方や認知機能、排尿症状などが改善するかを確認する検査です。
この検査によって、シャント手術で症状が改善する可能性があるかを判断する材料になります。日本正常圧水頭症学会でも、診療に役立つ実践的手引きやタップテストの実施手順に関する資料を公開しています。
ただし、タップテストの結果だけで治療方針が決まるわけではありません。画像所見、症状の経過、ほかの病気の有無、本人の体力や生活状況なども含めて総合的に判断されます。
家族が受診時に伝えたいこと
高齢者本人だけでは、症状の変化をうまく説明できないことがあります。受診の際は、できれば家族も一緒に行き、日常生活で気づいた変化を伝えると診断の助けになります。
たとえば、次のような内容をメモしておくとよいでしょう。
・いつ頃から歩き方が変わったか
・転倒やつまずきが増えたか
・物忘れや会話の変化があるか
・ぼんやりする時間や意欲低下があるか
・尿もれやトイレの失敗が増えたか
・症状が急に進んだのか、少しずつ進んだのか
・現在飲んでいる薬
・過去の病気や手術歴
水頭症は、症状がほかの病気と似ているため、家族の観察が大切な手がかりになります。
「年齢のせいだから仕方ない」と決めつけず、歩行、認知機能、排尿の変化が重なっている場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。
高齢者の水頭症は治療できる?手術で改善する可能性
高齢者に多い正常圧水頭症は、診断の結果、治療の対象になる場合があります。
特に、歩行障害、認知機能の低下、尿失禁などの症状があり、検査で正常圧水頭症が疑われる場合には、髄液の流れを調整する「シャント手術」が検討されることがあります。
正常圧水頭症は、認知症のような症状が出ることもありますが、原因や状態によっては治療により症状の改善が期待できる場合があります。そのため、「年齢のせい」「認知症だから仕方ない」と決めつけず、医療機関で評価を受けることが大切です。
シャント手術とは
シャント手術とは、脳や脊髄のまわりにたまった髄液を、体の別の場所へ流すための管を入れる手術です。
正常圧水頭症では、髄液の流れや吸収がうまくいかず、脳室が広がることで症状が出ると考えられています。シャント手術では、余分な髄液をお腹の中などへ流すことで、脳への圧迫をやわらげ、症状の改善を目指します。
代表的な手術には、次のような方法があります。
・脳室腹腔シャント
・腰椎腹腔シャント
・脳室心房シャント
どの方法が適しているかは、本人の状態、年齢、持病、画像検査の結果、医療機関の方針などによって異なります。
改善しやすい症状と改善に時間がかかる症状
正常圧水頭症では、シャント手術によって特に歩行障害が改善しやすいといわれています。
たとえば、歩幅が広がる、歩き出しがスムーズになる、すり足が軽くなる、転倒しにくくなるといった変化が見られることがあります。
一方で、認知機能の低下や尿失禁については、改善の程度に個人差があります。症状が出てから長い時間がたっている場合や、アルツハイマー型認知症、脳血管障害、パーキンソン病などが合併している場合は、思ったほど改善しないこともあります。
そのため、手術をすれば必ず元通りになるというわけではありません。どの症状にどの程度の改善が期待できるのか、事前に医師から説明を受けることが大切です。
手術にはリスクもある
シャント手術は、正常圧水頭症の治療として検討される方法ですが、手術である以上、リスクもあります。
たとえば、感染、出血、管の詰まり、髄液が流れすぎることによる頭痛や硬膜下血腫、再手術が必要になるケースなどがあります。
また、高齢者の場合は、心臓病、糖尿病、腎臓病、認知症、服薬内容、体力の低下なども考慮する必要があります。
手術を受けるかどうかは、症状の重さ、生活への影響、検査結果、本人の体力、家族の希望などをふまえて、医師とよく相談して決めます。
手術後もリハビリや生活支援が大切
手術を受けた後も、すぐに生活が完全に戻るとは限りません。
歩行が改善しても、筋力低下や転倒への不安が残る場合があります。そのため、必要に応じてリハビリを行い、歩行練習、筋力維持、転倒予防に取り組むことが大切です。
また、自宅で生活する場合は、段差を減らす、手すりを設置する、トイレまでの動線を整える、夜間の転倒を防ぐなど、住環境の見直しも必要になることがあります。
認知機能や排尿の症状が残る場合は、介護サービスや家族の見守り、ケアマネジャーへの相談も検討しましょう。
正常圧水頭症は、適切に診断されれば治療につながる可能性がある病気です。ただし、症状や治療効果には個人差があり、手術のリスクもあります。
高齢の家族に水頭症が疑われる場合は、検査結果や生活状況をふまえ、医師と相談しながら治療方針を考えていきましょう。
まとめ:高齢者の水頭症は、早めに気づいて受診することが大切
高齢者の水頭症、特に正常圧水頭症は、歩き方の変化、認知機能の低下、尿失禁などが見られる病気です。
これらの症状は、加齢による足腰の衰えや認知症、泌尿器の病気などと似ているため、家族だけで見分けるのは簡単ではありません。
しかし、次のような変化が重なっている場合は注意が必要です。
・歩幅が狭くなった
・すり足や小刻み歩行が目立つ
・転びやすくなった
・歩き出しや方向転換が難しくなった
・物忘れやぼんやりする様子が増えた
・意欲が低下した
・尿もれやトイレの失敗が増えた
「年齢のせいだから仕方ない」「認知症が進んだのかもしれない」と決めつけず、気になる変化がある場合は、かかりつけ医や脳神経内科、脳神経外科などに相談しましょう。
正常圧水頭症が疑われる場合は、頭部CTやMRIなどの画像検査、歩行や認知機能の確認、必要に応じてタップテストなどが行われます。検査の結果、治療の効果が期待できる場合には、シャント手術が検討されることもあります。
正常圧水頭症は、治療によって症状の改善が期待できる場合がある一方で、手術には感染や出血、髄液が流れすぎることによる合併症などのリスクもあります。そのため、治療を受けるかどうかは、本人の体力、持病、症状の程度、生活への影響をふまえて、医師とよく相談することが大切です。
また、手術後もリハビリや転倒予防、住環境の見直し、介護サービスの利用など、生活を支える準備が必要になることがあります。
高齢の家族に「歩き方」「もの忘れ」「尿もれ」の変化が見られるときは、早めに医療機関へ相談することが、適切な診断や治療につながる第一歩です。
