70代の母が認知症と診断されてから、物忘れや同じ話の繰り返しが増え、ついイライラして大きな声を出してしまうことが何度かありました。
母は怒鳴った直後はしゅんとしてしまったり、混乱してさらに落ち着きがなくなることもあります。でも、こちらも毎日の介護で余裕がなく、つい感情的になってしまいます。
認知症の人に怒ると、どんな影響があるのでしょうか? 怒ったあとはどのように接したらよいか、また、イライラしないコツなどもあれば教えてください。
ご相談ありがとうございます。
毎日の介護の中で、認知症のご家族に対してつい感情的になってしまう——そのお気持ち、よくわかります。
同じことを何度も繰り返されたり、思いがけない言動に戸惑ったりする中で、イライラや疲れが積み重なり、つい声を荒げてしまうことは誰にでも起こり得ることです。
認知症の方に怒ってしまったあと、「これでよかったのかな」「傷つけてしまったのでは」と悩まれるご家族も少なくありません。
しかし、“怒り”が認知症の方の心や行動にどんな影響を与えるのかは、あまり知られていない部分も多いものです。
今回は、認知症の方に怒ることで起こる変化や影響、家族の接し方や心のケアのポイントについて、やさしく解説します。ご自身の心を守るヒントや、イライラしにくくなる工夫もあわせてご紹介しますので、ぜひ参考になさってください。
認知症の人に怒るとどうなる?——“怒り”がもたらす心と行動への影響
認知症の方は、記憶や判断力だけでなく、感情を受け止める力や不安を和らげる力も弱くなりがちです。そのため、ご家族や周囲の人が怒ったり大きな声を出したりすると、次のような影響が現れやすくなります。
1. 不安や混乱が強まる
怒られたとき、認知症の方は「なぜ怒られているのか」「自分が何をしたのか」がうまく理解できないことが多いです。
突然大きな声を出されたり、否定的な言葉をかけられることで、「自分は悪いことをしてしまったのかもしれない」と強い不安や混乱を感じます。
2. 怖がったり、萎縮してしまう
繰り返し怒られることで、認知症の方は怖がって表情がこわばったり、しゅんとして元気がなくなったりすることがあります。中には「もう何も話さなくなる」「行動が極端に消極的になる」といった変化がみられることも。
3. 反発や興奮、逆効果の行動が出ることも
人によっては、怒られたことに対して反発したり、急に感情的になって大きな声を出したり、暴力的な言動に出ることもあります。これは「自分を守ろうとする本能的な反応」で、本人もどうしてよいか分からず、ますます落ち着かなくなってしまうことがあります。
4. “怒り”の体験だけが心に残ることもある
認知症の進行度によっては、「なぜ怒られたか」はすぐに忘れてしまっても、「怖かった」「不安だった」という感情体験だけが心に強く残ることがあります。そのため、ご家族が忘れてしまっても、ご本人は不安定な気持ちを引きずってしまうこともあります。
このように、“怒る”という対応は、認知症の方の心や行動に大きな影響を与えることがあり、必ずしも問題行動の解決にはつながりません。
感情的になってしまったときのフォローと家族のケア
1. まずは自分を責めすぎないで
介護をしていると、どんなに心を尽くしていても感情的になってしまうことは誰にでもあります。「怒ってしまった…」と落ち込むよりも、「次はどうすればいいか」を考えることが大切です。
2. 落ち着いた声かけ・優しいふれあいを心がける
もし怒ってしまったあと、ご本人がしゅんとしていたり、混乱や不安が強まっている様子があれば、「さっきはごめんね」「大丈夫だよ」とやさしく声をかけてあげましょう。
手を握ったり、背中をさすったり、表情をやわらかくするだけでも安心感につながります。
3. 感情が収まるまで少し距離をとるのもOK
自分自身の気持ちがどうしても落ち着かないときは、無理にその場で対応しようとせず、少し席をはずす・深呼吸をするなど、“間”を置くことも大切です。
感情の高ぶりは伝わりやすいので、まずは自分の気持ちを整える時間を取ってみましょう。
イライラしないための工夫とセルフケア
● 完璧を求めすぎない
認知症の方は、決して「わざと困らせている」のではありません。「何度も同じことを言う・する」のも病気の症状の一部です。
“こうあるべき”にとらわれすぎず、「まあいいか」「仕方ない」と少し肩の力を抜くことも大事です。
● 小さな楽しみやリフレッシュの時間を持つ
介護の合間に好きな音楽を聴く、散歩をする、家族や友人とおしゃべりするなど、自分のためのリフレッシュ時間を意識的に作りましょう。
「自分の心も大切にする」ことで、イライラをため込まずにすみます。
● 誰かに話す・相談する
気持ちが限界に近づいたときは、ひとりで抱え込まずに、家族や友人、専門職(ケアマネジャー・相談員など)に話を聞いてもらうことも大切です。
同じ経験をしている人に話すだけでも、気持ちが軽くなることがあります。
認知症の方の介護は、家族の“心のケア”もとても大切です。
つい怒ってしまったときは、「その後どう対応するか」や「自分をいたわること」を意識して、また新しい一日を重ねていきましょう。