認知症の徘徊、どう防ぐ?家族ができる現実的な対策と見守りの工夫

 

ご相談者

80代の母が認知症と診断されて1年ほどになります。最近「外に出て行こうとすること」が増えてきて、目を離せない状況が続いています。以前、夜中に外に出て行ってしまったことがあり、本当に怖い思いをしました。外出しようとするのを無理に止めても、本人は納得せず、かえって混乱してしまいます…。家族でどんな対策ができるのか、具体的な方法があれば知りたいです。

ご相談ありがとうございます。

「ちょっと目を離したすきに、いなくなってしまった――」
認知症を抱える家族を介護していると、そんな場面に直面することがあります。

特に“徘徊(はいかい)”は、本人には悪意がなくても命に関わる危険がある行動のひとつです。家族がどれだけ気をつけていても、防ぎきれないこともあり、「ずっと見張っていないといけないの?」と不安や疲れを感じている方も多いのではないでしょうか。

今回は、認知症による徘徊に悩む家族からの相談をもとに、家庭でできる現実的な対策や見守りの工夫をわかりやすくご紹介します。

なぜ徘徊が起きるのか?

“理由のない外出”ではなく、“理由が見えにくくなっている行動”

認知症の徘徊は、単なる「うろうろする行動」ではありません。
多くの場合、本人にとっては“目的のある外出”や“必要な行動”であり、それが記憶や認識の混乱によって現実とずれてしまっているのです。

以下は、よくある徘徊の原因や背景です。

記憶や時間の感覚があいまいになる

  • 「昔の記憶」が今の現実よりも強く残っている
    → 例:「もう仕事に行かなきゃ」「子どもを迎えに行かないと」など

  • 時間や場所の感覚が混乱する
    → 昼夜が逆転し、「夜なのに出かけようとする」こともあります

不安や落ち着かなさから動き出す

  • 見慣れない環境・騒音・人間関係などによって不安を感じる

  • トイレや誰かを探そうとして、目的が途中で分からなくなる

本人は「探している」「行かなきゃ」と思って動いているため、“理由のない徘徊”ではないということを理解することが大切です。

体のリズムや習慣が行動に表れることも

  • 若いころの生活習慣(散歩・買い物・通勤など)が無意識に出てくる

  • 「座ってじっとしている」ことが苦手になり、動き続けてしまう

こうした行動は、本人の“生きてきたリズム”や“性格”の表れであることも多く、否定するのではなく、理解しながらサポートする姿勢が求められます。

徘徊は“困った行動”として見られがちですが、実際には本人なりの理由が背景にある行動です。
この理解があると、次にとるべき対策や声のかけ方も変わってきます。

家庭でできる徘徊対策|「見守る」「防ぐ」だけでなく「寄り添う」工夫を

徘徊を完全に止めるのは難しくても、事故や行方不明のリスクを減らすことは可能です。
ここでは、家庭でできる具体的な対策を、「環境面」「心理面」「見守りツール」の3つに分けてご紹介します。

環境面での工夫(家の中・玄関まわり)

  • 玄関に目印を置く
     例:「出かける前にお茶をどうぞ」と書いた張り紙や、家族の写真などで注意をひく

  • ドアに補助ロックをつける
     手の届きにくい位置に鍵をつけることで、外出を一時的に防げます

  • 靴を見えない場所に置く
     靴が見えなければ“外に行こう”というスイッチが入りにくくなります

  • 夜間の徘徊対策にセンサーライトや足元灯を設置
     夜中に無意識で動くことを減らし、安全確保にもつながります

心理的な安心をつくる声かけ・対応

  • 目的を否定しない
     「行っちゃダメ!」ではなく、「今はもう〇〇の時間過ぎてるよ」など、やさしく気持ちを受け止める

  • “同行”や“誘導”で気持ちを切り替える
     「一緒に行こうか」→途中で別の話題に切り替えるなど、本人の“したいこと”を尊重しながら対応する

  • 日中の活動量・会話を増やす
     日中の刺激不足は、落ち着かなさや夜間徘徊につながることも。散歩や軽い作業、会話の時間を意識的に増やすと◎

見守り・位置情報サービスの活用

  • GPS付きの靴・タグ・キーホルダー
     → 徘徊が起きた際に居場所をすぐに確認できる

  • 見守りセンサー(ドア開閉センサー・離床センサー)
     → 外出しようとした瞬間に家族のスマホに通知が届く

  • 自治体や民間の“見守りサービス”に登録
     → 万が一の外出時にも、地域のネットワークで発見につながるケースあり

※多くの自治体では「認知症高齢者等見守り事業」などの支援制度が用意されています。無料または安価で利用できる場合もあるため、地域包括支援センターに相談してみましょう。

徘徊=止めるべき行動と考えるのではなく、
「なぜそうしたいのか?」を理解し、「どう安全に見守るか」を工夫することが、家族にも本人にもやさしい対応につながります。

もし徘徊して行方不明になったら?

慌てずに行動するための備えと対応手順

どれだけ気をつけていても、ふとした隙に外へ出てしまうことは起こり得ます。
そんなとき、家族が焦らず対応できるよう、「事前の備え」と「いざという時の対応」を知っておくことがとても大切です。

事前に準備しておきたいこと

顔写真・全身写真をスマホに保存しておく
 → 行方不明時の早期発見に有効。できれば最近の服装もわかるものを。

身元がわかるものを身につけてもらう
 → ネームタグ・連絡先メモ・GPS機能付きキーホルダー・QRコード付きシールなど
 → 衣類や靴の内側に小さく縫い付けるのも◎

「いつも行きそうな場所」のリストを作っておく
 → 近くのスーパー、公園、以前住んでいた家、仕事場だった場所など。思い出のある場所に向かうケースが多くあります。

自治体の「事前登録制度」や「見守りネットワーク」への登録
 → 市区町村によっては、事前登録により警察・交番・地域住民と連携した「早期発見支援体制」があります。

行方不明に気づいたときの対応手順

まずは家の周辺・よく行く場所を落ち着いて確認
 → 玄関・庭・トイレ・物置など思わぬところにいることも。

近所・知人に声をかける
 → よく話しかけてくれる人や、顔見知りの商店・病院などに確認。

警察(110番)にすぐ通報する
 → 「緊急性が高い」と判断されやすいのが認知症高齢者の行方不明。迷わず通報を。
 → 事前登録していればスムーズに情報共有が進みます。

地域包括支援センターや見守り協力団体にも連絡
 → 地域ぐるみの協力で、早期発見につながるケースも多くあります。

いちばん大切なのは「責めない」「落ち込まない」

徘徊してしまった本人も、不安や混乱の中で歩き続けている場合がほとんどです。
無事に見つかったあとは、「もう出ないで!」ではなく、「よく帰ってきたね」とまずは安心させてあげることが何より大切です。

“見守ること”は、縛ることではない

認知症の徘徊に悩む家族に伝えたい、やさしい備えの考え方

認知症の徘徊は、決して“意味のない行動”ではありません
本人なりの理由や感情、記憶のズレから起こる“必要な行動”であることがほとんどです。
大切なのは、「出さないようにする」ことよりも、“出てしまったとしても、安全に戻ってこられる工夫”を積み重ねることです。