「年金は60歳からもらった方が賢い」は本当?後悔しない判断方法

 

ご相談者

現在59歳で、来年60歳になります。会社は60歳で定年を迎える予定ですが、再雇用で働くかどうかはまだ決めていません。

最近、知人から「年金は65歳まで待たず、60歳からもらった方が賢い」「早く亡くなったら、待った分だけ損をする」と聞きました。

一方で、年金を早く受け取ると、毎月の金額が減り、その減額が一生続くとも聞いています。

住宅ローンは完済していますが、老後の貯蓄にそれほど余裕があるわけではありません。元気なうちに旅行や趣味にもお金を使いたいと思っていますが、長生きした場合に生活費が足りなくなるのも心配です。

年金は本当に60歳からもらった方が得なのでしょうか。65歳まで待った場合と比べて、何歳くらいで受給総額が逆転するのか、また、どのような人が60歳から受け取るのに向いているのか教えてください。

ご相談ありがとうございます。

「年金は60歳からもらった方が賢い」という話を聞き、繰上げ受給を検討している方は少なくありません。

年金を早く受け取れば、60代前半の生活費を補えるほか、元気なうちに旅行や趣味などに活用できるメリットがあります。一方で、繰上げ受給をすると毎月の年金額が減り、その減額は生涯続きます。

そのため、「早く受け取った方が必ず得」「65歳まで待った方が安心」と、一概に決めることはできません。

大切なのは、受給総額だけでなく、現在の収入や貯蓄、健康状態、働き方、将来必要になる生活費まで含めて考えることです。

年金を60歳からもらった方が賢いと言われる理由や、65歳から受け取る場合との損益分岐点、繰上げ受給が向いている人・慎重に考えたい人についてわかりやすく解説します。

年金は60歳からもらった方が賢いとは限らない

結論からお伝えすると、年金を60歳からもらった方が賢いかどうかは、その人の収入や貯蓄、健康状態、今後の働き方によって異なります。

年金は原則として65歳から受け取りますが、希望すれば60歳から65歳になるまでの間に受給を始める「繰上げ受給」を選ぶことができます。

繰上げ受給を利用すれば、65歳になる前から年金収入を得られます。定年後の収入が少ない方や、貯蓄の取り崩しを抑えたい方にとっては、60代前半の生活を支える有効な選択肢になるでしょう。

一方、年金を早く受け取るほど、毎月受け取れる金額は少なくなります。1962年4月2日以降に生まれた方の場合、繰上げによる減額率は1か月につき0.4%です。60歳になった時点で受給を始めると、本来65歳から受け取る年金額より24%減額されます。

たとえば、65歳から月額10万円を受け取れる方が60歳から受給すると、単純計算では月額約7万6,000円になります。この減額は65歳になっても元に戻らず、その後も一生続きます。

そのため、年金の受給開始時期を考える際は、「生涯でいくら受け取れるか」だけで判断するのではなく、次のような点を総合的に考えることが大切です。

  • ・60歳以降も働く予定があるか
  • ・毎月の生活費はいくら必要か
  • ・貯蓄や退職金に余裕があるか
  • ・健康状態に不安がないか
  • ・配偶者の収入や年金があるか
  • ・将来の医療費や介護費に備えられるか

たとえば、60歳で退職し、その後の収入がほとんどない方であれば、減額を受け入れてでも早く年金を受け取る意味があります。

反対に、65歳まで働いて生活費を賄える方や、貯蓄に余裕がある方は、急いで受給せず、65歳まで待つ方が老後の毎月の収入を確保しやすくなります。

また、「長生きすると65歳受給が得になるから、60歳受給は損」とも一概にはいえません。たとえ生涯の受給総額が少なくなったとしても、元気な60代のうちに旅行や趣味、家の修繕などに年金を活用することを重視する人もいます。

年金は、単純に受給総額を最大化するためだけのお金ではありません。何歳のときに、どのような暮らしをしたいのかを考え、自分にとって必要な時期に受け取ることが重要です。

つまり、「60歳からもらう」「65歳まで待つ」のどちらかがすべての人にとって正解なのではなく、自分の生活設計に合っている方を選ぶことが、最も賢い判断といえるでしょう。

年金を60歳からもらう「繰上げ受給」とは

公的年金の老齢基礎年金・老齢厚生年金は、原則として65歳から受け取ります。

ただし、本人が希望して手続きを行えば、60歳から65歳になるまでの間に受給開始時期を早めることができます。これを「年金の繰上げ受給」といいます。

繰上げ受給は、60歳になったら自動的に始まるものではありません。受給を希望する時期に、年金事務所や街角の年金相談センターなどで請求手続きを行う必要があります。

年金を60歳からもらう「繰上げ受給」とは

公的年金の老齢基礎年金・老齢厚生年金は、原則として65歳から受け取ります。

ただし、本人が希望して手続きを行えば、60歳から65歳になるまでの間に受給開始時期を早めることができます。これを「年金の繰上げ受給」といいます。

繰上げ受給は、60歳になったら自動的に始まるものではありません。受給を希望する時期に、年金事務所や街角の年金相談センターなどで請求手続きを行う必要があります。

受給開始時期は月単位で選べる

繰上げ受給は、必ずしも60歳になった直後から始める必要はありません。

60歳から65歳になるまでの間であれば、61歳や62歳、あるいは64歳6か月など、自分の生活状況に応じて月単位で受給開始時期を選べます。

ただし、早く受給を始めるほど、毎月受け取れる年金額の減額率は大きくなります。

1962年4月2日以降に生まれた方の場合、年金を繰り上げると、65歳より早めた1か月につき0.4%ずつ減額されます。

主な受給開始年齢と減額率の目安は、次のとおりです。

受給開始年齢 65歳まで繰り上げる期間 減額率
60歳 60か月 24.0%
61歳 48か月 19.2%
62歳 36か月 14.4%
63歳 24か月 9.6%
64歳 12か月 4.8%
65歳 なし 減額なし

たとえば、65歳から月額10万円を受け取る予定の方が、60歳から繰上げ受給をすると、24%減額され、月額は約7万6,000円になります。

一方、63歳から受給を始めた場合の減額率は9.6%となり、月額は約9万400円です。

このように、同じ繰上げ受給でも、何歳から受け取り始めるかによって、その後の年金額は大きく変わります。

減額された年金額は一生変わらない

繰上げ受給で特に注意したいのは、減額が65歳までの一時的なものではないことです。

たとえば、60歳から受給して24%減額された場合、65歳になったときに本来の年金額へ戻るわけではありません。70歳、80歳、90歳になっても、原則として減額された金額を受け取り続けます。

物価や賃金の変動などによる年金額の改定はありますが、繰上げによって決まった減額率そのものは生涯変わりません。

また、一度繰上げ受給を請求すると、後から取り消したり、「やはり65歳からの受給に戻したい」と変更したりすることはできません。

そのため、繰上げ受給を利用する前には、現在の生活費だけでなく、80代・90代になったときの収入や医療費、介護費についても考えておく必要があります。

老齢基礎年金と老齢厚生年金は原則同時に繰り上げる

会社員や公務員として厚生年金に加入していた方は、老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を受け取れる場合があります。

繰上げ受給を選ぶ場合、原則として老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に繰り上げて請求します。

「老齢基礎年金だけを60歳から受け取り、老齢厚生年金は65歳まで待つ」といった選び方は、原則としてできません。

繰上げ受給は、60代前半の収入を確保できる便利な制度です。しかし、受給開始を早めた月数に応じて年金額が減り、その減額が一生続くという重要な特徴があります。

「とりあえず早くもらっておこう」と決めるのではなく、自分の年金見込額を確認し、減額後の金額でも将来の生活を続けられるかを検討してから手続きすることが大切です。

年金を60歳からもらうと得する可能性があるケース

年金を60歳から受け取ると毎月の金額は減りますが、必ずしも「繰上げ受給=損」とは限りません。

早く受け取ることで生活が安定したり、貯蓄の減少を抑えられたりする場合は、結果として繰上げ受給を選ぶメリットが大きくなることがあります。

ここでは、年金を60歳からもらうことで得する可能性があるケースを紹介します。

ケース1.60歳で退職し、65歳までの収入がほとんどない

60歳で会社を退職し、再雇用や再就職をしない場合、65歳までの5年間は給与収入がなくなる可能性があります。

たとえば、毎月の生活費が20万円必要で、年金を65歳まで受け取らない場合、5年間で必要になる生活費は単純計算で1,200万円です。

退職金や貯蓄で生活費を賄うこともできますが、老後資金が急速に減っていくことに不安を感じる方もいるでしょう。

このような場合、60歳から年金を受け取れば、毎月の生活費の一部を年金で補えます。受給額は減るものの、貯蓄を取り崩すペースを緩やかにできる点は大きなメリットです。

特に、65歳までの収入源がなく、生活費を確保する必要がある人にとっては、繰上げ受給が現実的な選択肢になります。

ケース2.健康状態に不安があり、早めに年金を活用したい

持病がある方や、体力の低下を感じている方は、「元気に動けるうちに年金を使いたい」と考えることがあります。

65歳まで待てば毎月の年金額は多くなりますが、その間に健康状態が悪化し、旅行や趣味を楽しめなくなる可能性もあります。

60歳から年金を受け取り、体力のある時期に旅行や家族との時間、趣味などに活用することも、ひとつの考え方です。

ただし、治療中の病気や持病がある方は注意が必要です。繰上げ請求後は、事後重症などを理由とした障害基礎年金や障害厚生年金を請求できなくなる場合があります。

健康状態に不安があるからこそ繰上げ受給を考える方は、手続き前に年金事務所などへ相談し、障害年金への影響を確認しておく必要があります。

ケース3.80歳前後までの受給総額を重視したい

60歳から年金を受け取った場合、65歳までに5年分の年金を先に受け取れます。

たとえば、65歳からの年金額が月額10万円の方が、60歳から24%減額された月額7万6,000円を受け取るとします。

この場合の累計受給額は、次のようになります。

年齢 60歳から受給 65歳から受給
65歳 456万円 0円
70歳 912万円 600万円
75歳 1,368万円 1,200万円
80歳 1,824万円 1,800万円
81歳 1,915万2,000円 1,920万円

この単純計算では、80歳前後までは60歳から受け取った場合の累計額が多く、81歳前後で65歳受給が上回ります。

そのため、「将来の月額よりも、早い時期に受け取れる総額を重視したい」という方にとっては、60歳受給が有利になる可能性があります。

ただし、実際の損益分岐点は、生年月日や年金額、税金、社会保険料、働き方などによって変わります。

ケース4.年金を受け取ることで貯蓄を残せる

老後資金を考える際は、年金の受給総額だけでなく、手元の貯蓄をどれだけ残せるかも重要です。

たとえば、65歳まで毎月10万円ずつ貯蓄を取り崩すと、5年間で600万円減ることになります。

一方、60歳から年金を受け取って生活費に充てれば、その分だけ貯蓄の取り崩しを抑えられます。

住宅の修繕費や医療費、介護費など、老後にはまとまった支出が発生することがあります。そのため、毎月の年金額が多少減ったとしても、預貯金を手元に残しておくことを優先したい方には、繰上げ受給が合う場合があります。

ケース5.元気な60代の生活を充実させたい

老後のお金は、できるだけ多く残すことだけが目的ではありません。

60代は、体力や行動力があり、旅行や外出、趣味を楽しみやすい時期でもあります。孫との時間や夫婦での旅行、自宅のリフォームなどにお金を使いたいと考える方もいるでしょう。

年金を65歳まで待つことで将来の受給額は増えますが、使いたい時期に使えるお金が不足してしまうこともあります。

「年金の総額を最大化すること」よりも、「元気なうちに生活を楽しむこと」を重視するのであれば、60歳からの受給にも十分な意味があります。

ケース6.減額後の年金額でも将来の生活に支障がない

配偶者にも収入や年金がある場合や、持ち家で住宅費の負担が少ない場合は、繰上げによって年金額が減っても生活に大きな影響が出ないことがあります。

たとえば、夫婦それぞれに年金がある、家賃や住宅ローンの支払いがない、十分な貯蓄があるといったケースです。

減額後の年金額でも80代以降の生活費を確保できるのであれば、60歳から受け取り、早い時期の生活に活用する選択肢も考えられます。

「得」の意味は受給総額だけではない

年金で得をするかどうかを考えるときは、何歳まで生きれば総額が多くなるかだけに目が向きがちです。

しかし、実際には次のような点も含めて考える必要があります。

  • 60代前半の生活を安定させられるか
  • 貯蓄の取り崩しを抑えられるか
  • 元気なうちにお金を活用できるか
  • 将来の医療費や介護費を確保できるか
  • 減額後の年金額で長生きに備えられるか

年金を60歳から受け取ることで、生活上の不安が減り、希望する暮らしを実現できるのであれば、その人にとっては「得をする選択」といえるでしょう。

ただし、繰上げ受給による減額率は一生変わらず、受給開始後に取り消したり変更したりすることはできません。実際に手続きをする前に、自分の年金見込額や生活費を確認し、複数の受給開始年齢で試算することが大切です。

執筆者

この記事の執筆者
清水 健児

バディファミリーサービス / 生活サポートアドバイザー

バディファミリーサービス所属。
高齢者の生活支援や介護保険外サービスの相談に多数対応。

外出サポート、買い物同行、施設探しなど、
家族だけでは難しい生活支援のサポートを行っている。

現在は地域サロンの運営や、
高齢者と家族を支える生活支援サービスの普及活動にも取り組んでいます。