延命治療で“どれくらい生きられるのか”——判断に迷う家族が知っておきたい現実と選択肢

 

ご相談者

90歳の母が肺炎で入院し、医師から“延命治療をどうするか”の判断を迫られています。
どれくらい生きられるのでしょうか?
母は普段から『苦しい治療は望まない』と言っていましたが、家族として何が正しいのかわかりません。
延命治療を選ぶ場合と選ばない場合で、どんな違いがあるのか知りたいです。

ご相談ありがとうございます。

延命治療の選択は、家族にとって最も迷いが大きく、答えの出しづらいテーマの一つです。

「あとどれくらい生きられるのか」「治療は苦しくないのか」「本人はどう考えていたのか」——
判断するためには、延命治療の“実際に起こること”を理解する必要があります。

しかし現場では、医師から説明を受けても専門用語が多く、時間が限られ、感情も揺れ動く中で冷静な判断は難しいものです。

延命治療で期待できる延命期間や状態の変化、治療を行う場合・行わない場合の違い、家族が判断する際に大切にしたい視点をわかりやすく解説します。

延命治療でどのくらい生きられるのか(治療ごとの違い)

延命治療と一口に言っても、その内容によって「どれくらい延命できるか」は大きく異なります。
ここでは、医療現場で行われる主な延命治療と、その効果・期待できる期間の目安をわかりやすく整理しました。

※記載している期間は医学的な一般傾向であり、年齢・病気の進行・体力・基礎疾患によって大きく異なります。

人工呼吸器(気管挿管・NPPV)

人工呼吸器は「呼吸する力が保てない」状態で行われる代表的な延命治療です。

どのくらい延命できる?

  • 数日〜数週間:高齢者・多臓器不全など体力が弱い場合

  • 数ヶ月〜数年以上:筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、呼吸筋だけが障害されている場合

高齢者で肺炎や多臓器不全が進んでいる場合は、
人工呼吸器をつけても 「回復」ではなく“呼吸を支えるための延命”にとどまることが多い といわれます。

● 状態としては?

  • 意識がないまま人工呼吸器をつけるケースも多い

  • 移動や意思表示が難しい

  • 痛みは少ないが、チューブの違和感や拘束が必要なこともある

心肺蘇生(心臓マッサージ・電気ショック)

心停止した際に行う処置。

どのくらい延命できる?

  • 効果は限定的

  • 病院内で心停止が起きた場合の生存退院率は約5〜20%とされる(病状による)

  • 高齢者・末期疾患では 蘇生後の生存期間は極めて短い(数時間〜数日程度が多い)

● 状態としては?

  • 肋骨骨折、内臓損傷など身体への負担が非常に大きい

  • 意識が戻らないまま再度心停止となるケースも多い

中心静脈栄養(IVH)・胃ろう

栄養が取れなくなった際に行う延命方法。

どのくらい延命できる?

  • 数ヶ月〜数年

  • 病状が安定し、基礎疾患が軽い人は比較的長期で維持可能

ただし、

  • 誤嚥性肺炎

  • 感染症

  • 全身衰弱

などのリスクは続きます。

● 状態としては?

  • 意識がある場合、比較的穏やかに過ごせることもある

  • 認知症の進行は止められない

  • 栄養を入れても “体の回復力” が戻るわけではない

点滴(末梢点滴)だけの治療

最も負担の少ない延命手段ですが、延命効果は限定的。

どのくらい延命できる?

  • 数日〜1〜2週間程度が目安

身体が栄養を受け取る力が弱っている終末期では、
点滴で強制的に水分を入れると むしろ苦しさやむくみが増える シーンもあります。

抗生剤や輸血などの「治療的ケア」

延命治療と積極的治療の中間に位置します。

● 抗生剤(肺炎・尿路感染など)

  • 効果があると 数日〜数週間 延命するケースがある

  • ただし高齢者の重症肺炎では改善しない場合も多い

● 輸血

  • 貧血症状が改善し、数日〜数週間 体調が安定することもある

延命治療によって延びる期間は、「どんな治療か」よりも “どの程度体が弱っているか” が強く影響します。

同じ治療でも、

  • 元気な高齢者 → 数ヶ月延命

  • 多臓器不全が進行 → 数日〜数週間
    と大きな差が出るのが現実です。

家族が判断するときのチェックポイント

延命治療を「する・しない」を家族が決めるとき、大切なのは “医学的な正しさ” だけでなく、“本人の人生の価値観” を丁寧に考えることです。
ここでは、後悔の少ない判断につながる6つの視点を紹介します。

1.本人が語っていた価値観・希望があるか

延命治療の選択は“本人ならどう望むか”という視点が重要です。

  • 「苦しい治療はいやだ」

  • 「できる限り自然に任せたい」

  • 「家族に迷惑をかけたくない」

  • 「延命してでも会いたい人がいる」

これらの言葉は、どんな医療よりも本人の意思を示す大きな手がかりです。

もし曖昧でも日常の会話・性格・生き方の傾向がヒントになります。

2.延命治療で“回復の可能性”はどれくらいあるか

延命治療には「延命はできても回復は難しい」というケースが少なくありません。

医師に確認すべき項目は:

  • 回復の見込みはどれくらい?

  • 回復するとしたらどこまで戻れる?

  • 延命治療をしてもしなくても“最期の時期”に大きな差はあるのか?

  • この治療は「治す治療」か、「命を伸ばすための治療」か?

医師に “率直に教えてほしい” とお願いすれば、多くの医療者は正直に状況を説明してくれます。

3.延命治療を選んだ場合の“生活の質”はどうなるか

延命治療は「時間を伸ばす」反面、生活の質(QOL)が大きく変わる ことがあります。

  • 人工呼吸器で話せない

  • 動けなくなる

  • 家に帰れない

  • 意思表示が難しい

  • 医療的拘束が必要になることがある

“命の時間” と “生活の質”どちらを本人が大切にしていたかを考えることが、判断の軸になります。

4.家族の負担やストレスは現実的に耐えられるか

延命治療を続けると、家族にも長期的な負担が生じます。

  • 毎日の病院通い

  • 医師からの連絡

  • 仕事との両立

  • 心のストレス

  • 金銭的負担

  • 介護の継続

延命治療は “家族の覚悟” が必要になることも多いものです。
無理のない範囲で判断してよい——医療者もそのことを理解しています。

5.延命治療を行わなかった場合、本人は苦しくないのか?

多くの人が心配するのがここですが、実は延命治療を行わなくても
緩和ケアで苦痛を減らす方法は確立されています。

医師に以下の質問をすると安心できます:

  • 延命治療を行わなかった場合、苦しさはどうケアされる?

  • 痛み・呼吸苦への緩和策は?

  • 最期はどういった経過をたどることが多い?

“苦しませたくない” という家族の思いは、緩和ケアでしっかり守られます。

6.家族全員で話し合えているか

延命治療の判断で増えるのが家族間の意見の対立 です。

  • 長男は「できることはしたい」

  • 長女は「本人は望まないはず」

  • 子どもたちで意見が割れる

よくある状況です。

大切なのは「誰が正しいか」ではなく、“本人の意思に一番近い選択はどれか” に立ち返ること。

医師・看護師・医療ソーシャルワーカーに家族会議を開いてもらうことも可能です。

正解はないので“本人らしい最期”を家族で選ぶことが大切

延命治療の判断に絶対の正解はありません。
重要なのは 本人の価値観を中心軸にし、家族が納得して選べること

迷った時は医師や専門職に相談することで、家族にとっての最善の選択が見えてきます。