80代の父が、最近「がん」と診断されました。医師からは治療の選択肢をいくつか提案されましたが、年齢や体力のこともあり、父自身は「もう無理に治療しなくてもいいかな」と言い出しています。
家族としては「治療しないことで何か悪いことが起きないか」「痛みや苦しみが増えたりしないか」と心配ですし、本人が本当に納得しているのかも不安です。
高齢者が「がん治療をしない」とどうなるのか、どんなことに気を付けたらいいのか、ぜひ知りたいです。
ご相談ありがとうございます。
「高齢者ががんと診断されたとき、“あえて治療しない”という選択肢を考える方も増えてきました。
実際、年齢や持病、生活の質(QOL)を重視して、がん治療(手術・抗がん剤・放射線など)を行わないケースも珍しくありません。
ですが、『治療しないとどうなるのか』『家族として何ができるのか』という不安はとても自然なものです。
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・高齢者が「がんを治療しない」とどうなるのか
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・治療をしない場合に起こること、考えるべきこと
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・苦痛や不安を和らげるためのサポート(緩和ケア)
など、専門家の立場からわかりやすく解説します。
大切なご家族が納得して過ごせるように、後悔しない選択のためのヒントにしてください。
高齢者が「がん治療をしない」とどうなるのか
高齢者が「がん治療をしない」場合、どうなるのでしょうか?
まず知っておいてほしいのは、「治療しない=すぐに症状が悪化する」「何もできない」わけではないということです。
がんの種類や進行度、体の状態によって経過はさまざまですが、主に次のような流れや特徴があります。
1. がんの進行は個人差が大きい
がんは種類や部位、進行の速さによって大きく違います。
たとえば、高齢者に多い前立腺がんや一部の乳がんなどは進行がとてもゆっくりで、治療をせず経過観察だけで何年も元気に過ごせることも珍しくありません。
一方で、進行が早いがんや症状が出やすい部位の場合は、比較的早く体調の変化が現れることもあります。
2. 治療をしないことでの体調変化
治療をしない場合、がんそのものや転移による症状(痛み・食欲低下・倦怠感・息苦しさなど)が少しずつ出てくることがあります。
しかし、近年は「緩和ケア」という、痛みや不快な症状を和らげる専門的な医療が発達しており、
「治療をやめたらすぐに苦しむ」「何もサポートがない」ということはありません。
体調の変化は、
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・徐々に体がだるくなる
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・食欲が落ちる
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・貧血やむくみが現れる
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・痛みや不快感が強くなる
などが考えられますが、その進行の仕方やスピードには個人差があります。
3. 本人の気持ち・家族のサポートが大切
治療をしないという選択をした場合も、
「自分らしく、できるだけ快適に過ごしたい」という気持ちを支えることがとても大切です。
ご本人の希望や考え方を尊重しながら、
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・苦痛をできるだけ少なくするためのケア
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・食事や水分補給など、日々の生活支援
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・好きなことを続ける、家族や友人と過ごす
など、“その人らしい時間”を大切にするサポートが求められます。
4. 「何もしない」ではなく「穏やかに過ごすための医療」を受ける
「治療しない=医療を受けない」ではありません。
近年は、治療による延命よりも「痛みや苦しみをやわらげる」「生活の質を保つ」ことを重視する“緩和ケア”の充実が進んでいます。
ご本人・家族で相談しながら、必要なサポートや医療(訪問診療・在宅緩和ケアなど)を受けることができます。
治療をしない場合に考えておきたいことと家族ができるサポート
高齢者が「がん治療をしない」という選択をした場合、本人だけでなく家族にもさまざまな思いが生まれます。
ここでは、納得できる選択や穏やかな生活のために、家族が事前に考えておきたいことや実際にできるサポートについてまとめます。
1. 本人の思いをじっくり聞く・話し合う
まず最も大切なのは、ご本人が「どのように過ごしたいか」を自分の言葉で話せる機会をしっかり作ることです。年齢を重ねた方の中には、「無理な治療でつらい思いをしたくない」「できるだけ自分らしく穏やかに過ごしたい」と考える方が少なくありません。一方、家族の立場からは「本当に治療しなくて後悔しないか」「痛みや苦しみが増えたりしないか」といった不安や迷いが生じます。
こうしたときは、ご本人と家族だけで抱え込まず、医師や看護師、ソーシャルワーカー、在宅医療の専門家などに相談しながら、両者が納得できるまでじっくりと話し合うことが大切です。
2. 「緩和ケア」を早めに利用する
治療をやめるイコール医療のサポートが終わるわけではありません。がんによる痛みや不快な症状を和らげるための「緩和ケア」は、がんが進行した方や治療を望まない方にとって大きな支えになります。緩和ケアは「もう治療法がない」「末期の状態」になってから始めるものではなく、つらい症状や不安があれば早い段階から受けられます。
もし興味がある場合は、医師に「緩和ケアを利用したい」と相談すれば、専門のチームや施設を紹介してもらえます。無理に我慢せず、早めにサポートを受けることが、ご本人とご家族の安心につながります。
3. 自宅での過ごし方と介護体制
治療をしない場合、多くの方が「できれば住み慣れた自宅で穏やかに過ごしたい」と希望されます。自宅での介護や見守りを支える方法としては、在宅医療(訪問診療・訪問看護・訪問介護)を利用したり、地域のケアマネージャーや介護サービスと連携したりすることが挙げられます。日常の食事や排泄、体調管理といったケアは、ご本人の状態や希望に合わせてサポートを受けられますし、痛みが強くなった場合には医療的なサポートも活用できます。
いざという時に困らないよう、早めに地域の訪問医や看護師、ケアマネージャーに相談しておくと、安心して在宅生活を送ることができます。
4. 心のケアとコミュニケーション
高齢者本人も家族も、「がんのこと」や「治療しない選択」について大きな不安や迷いを感じがちです。こうした気持ちを一人で抱え込まず、医療従事者や介護スタッフとこまめに連絡を取り合ったり、同じ経験を持つ家族のサポートグループに参加したり、地域の相談窓口や訪問相談サービスを活用したりすることで、心の負担を軽くすることができます。時には、身近な人と率直に気持ちを分かち合うことが、支えとなります。
5. 最期の過ごし方を考えておく
高齢のご本人が治療しない選択をされた場合には、もしもの時に備えて延命治療や救急搬送をどうするかを家族で話し合っておくことも重要です。意思表示(リビングウィル)や家族の希望を文書にまとめたり、「最後に会いたい人」「やり残したこと」なども、少しずつご本人と確認しておくと安心です。こうした準備は、ご本人にも家族にも心の整理と安らぎをもたらします。
高齢者のがん治療をしない場合に受けられる“緩和ケア”とは
治療を選択しない場合、「これから痛みや苦しみが増えるのでは」と心配する方も多いのですが、近年は“緩和ケア”の体制が大きく進化しています。
緩和ケアとは
緩和ケアとは、「がんそのものを治す」ことを目指すのではなく、痛み・息苦しさ・吐き気・不安・倦怠感・不眠など、さまざまな苦痛や生活上の困りごとを和らげることを重視する医療・ケアのことです。
治療をやめる=何もしない、ではなく、むしろ「自分らしく・心穏やかに過ごすために、医療や専門家のサポートをしっかり受ける」という考え方が緩和ケアの本質です。
どんなサポートが受けられるの?
たとえば、
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がんによる痛みや不快感を薬やケアでやわらげる(モルヒネ等の疼痛管理も可)
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食事や睡眠、日常生活が少しでも楽になるよう工夫してくれる
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気持ちの不安や家族の悩みも、専門スタッフ(心理士・ソーシャルワーカーなど)が寄り添ってくれる
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必要なら、在宅で訪問診療・訪問看護の体制も組める
また、緩和ケアは「最期が近いときだけ」ではなく、つらい症状や不安を感じ始めた段階から利用できるので、早めに相談することでご本人もご家族も安心感が増します。
どこで受けられる?
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大きな病院には「緩和ケア外来」や「緩和ケアチーム」があります。
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地域のクリニックや在宅医も、必要に応じて訪問診療・訪問看護をコーディネートしてくれます。
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介護保険サービス(訪問介護やデイサービス)とも連携できます。
「がんの治療をやめたい」「穏やかに過ごすことを重視したい」と思ったら、早めに主治医や病院の相談窓口に声をかけてみましょう。
よくあるQ&A ~ 治療しないと本当に後悔しない?家族の不安はどうする?
Q1. 治療をしないと、がんがすぐに進行してしまいますか?
A.
がんの種類や進行度によって異なりますが、特に高齢者の場合、進行がゆっくりのがん(例:前立腺がん、いくつかの乳がん、消化器がんの一部など)も多く、急激に状態が悪化するとは限りません。体力やQOL(生活の質)を保ちながら穏やかに過ごせる期間も多いので、医師とよく相談しながら経過を見ていくことが大切です。
Q2. 本人が「治療しない」と言ったが、本当に大丈夫?
A.
高齢のがん患者さんの多くが、「できるだけ自分らしく暮らしたい」「もう無理な治療は受けたくない」と考えています。
家族としては心配な気持ちも当然ですが、本人の気持ちを尊重し、その人らしい最期をサポートすることも選択肢のひとつです。
不安な点は遠慮なく医療スタッフやケアマネージャーに相談しましょう。
Q3. 緩和ケアを受けるには、どこに相談したらいい?
A.
まずは主治医やかかりつけ医、病院のがん相談支援センターに連絡しましょう。「治療をやめたい」「これからの生活について相談したい」と伝えれば、適切な窓口や専門家を紹介してもらえます。
Q4. 介護サービスや在宅医療は利用できる?
A.
はい、利用できます。訪問診療・訪問看護・訪問介護などを組み合わせて、自宅で過ごすサポート体制を作ることができます。
必要な申請や調整は、ケアマネージャーや地域包括支援センターにも相談してください。
治療をしないと決めたからといって、何もできないわけではありません。
ご本人・ご家族が安心して“自分らしく”過ごせるように、医療や介護の専門家と一緒にサポート体制を作っていきましょう。